秋、ストーブ1台分の距離

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秋、ストーブ1台分の距離

「寒っ……」 身を切る風の冷たさに思わずとりとめない言葉がこぼれる。 残暑が長く続いたと思ったら、あっという間に冬の気配だ。 冬の景色は空気も澄んでいて好きではあるが、寒いのはダメだ。 外出しての撮影も、どうしても億劫になってしまう。 まだ早いとは思うが部室に備え付けのストーブを使えるようにしようと思う。 灯油は去年の物がまだ残っていたはずだ、 安全性に少々不安があるが、まぁ、大丈夫だろう。 そうして、放課後の時間を使い部室に備え付けられた円筒型のストーブを綺麗にする。 整備なんて到底出来ないので、私にはこれが精一杯の準備だった。 去年も問題なく動いていたので今年も動いてくれるとは思うが、 如何せん旧校舎を部室棟として再利用しているここの備え付けのストーブは とうの昔に耐用年数は過ぎているだろうし油断は出来ない。 いい加減、他の部室のように持ち運びの出来る 新品のストーブでも置けばいいとは思うが、 いつ無くなるかも分からないこの部活動にそんな予算は割けないのだろう、 だから、こうして私が去年と同じように外面(がいめん)だけでも清掃して使えるようにしている訳だ。 顧問は「お前、レトロ趣味だろ? 良かったじゃないか」などと暢気に言い放っていたが、 別に私は懐古趣味者でもアナログ崇拝者でもないので、何が良かったのか。 フィルムカメラを愛用してる事から、どうもそういう誤解をされやすいらしいが、 まぁ、そんな誤解は別に大したことではないし自分から解こうとする事はなかった。
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