春、それはとても静かな日の一杯のコーヒー

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入学して一年が経ち、私は高校二年生となった。 だからとて何があるでもなく、 いつものように静かな部室にて私は私のカメラの手入れをしていた。 春の穏やかな陽射しが射す中「明日は公園にたんぽぽでも撮りに行こうかな」など 暢気に考えていると、不意に扉が開かれた。 何も驚くことはない。 この季節だ、新入生が冷やかしか何かで覗きに来ることが良くある。 とはいえ、僅かばかりその時期は過ぎており珍しいと言えば珍しかった。 私は特にリアクションもせず、相手が厄介事を起こさぬよう注視する。 見ればおろし立てであろう制服に黄色いネクタイピンの女生徒。 そのタイピンの色で相手が確かに新入生であろう事は一目瞭然だった。 ただ、その様子は冷やかしにきたでも、ましてや入部しようなどという姿ではなかった。 言うならば当て所なく歩いていたら、さ迷い込んだといった(てい)だ。 その様子なら備品をいじるような真似をしないだろうと思い、 彼女の動向にさして興味の無い私はカメラの手入れと視線を戻す。 すると小さな物音と小さな悲鳴。 何か部室の備品──カメラなど壊されては堪らぬと直ぐさま視線を音の方へ向けると、 驚いた様子の先ほどの新入生の顔があった。 察するに『誰も居ない部屋に私が居た』から驚いた。といった所だろう。 まぁ、昔から「居るんだか居ないんだか分からない」と言われ続けていた私だ。 もはや私にとっては慣れきった事であり別に不快でも失礼にも感じないので、 何を言うでもなく私はカメラの手入れに戻る。
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