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「あ……あの、ご、ごめんなさい」
彼女の顔を視界から外すと謝罪の声が聞こえてきた。
物音を立てたことだろうか、それとも私の存在に気付かなかったことに対する謝罪だろうか、
どちらにせよ私には些末な事なのにひどく申し訳なさそうな声で言うものだから、
こちらとしても酷く悪い気持ちになってしまう。
かといって私に彼女を安心させられるような話術も無いし、そのつもりもない。
だから──「コーヒーは飲めますか?」
砂糖二つにフレッシュ一つ。
顧問の私物であるコーヒーメーカーで淹れた一杯。
こんなものしか用意できないが、
忌避している訳ではない事を伝えるには十分だろう。
伝わらなくても、それはそれで構わないけれど。
「あ、ありがとうございます」
私が手入れしていた席から離れた場所に座った彼女は縮こまりつつ小さく礼を述べた。
私は特に何を言うでもなく手入れに戻るべく元いた席に着く。
「どうぞ」ぐらい言えばよかったかな。
日課である手入れを終え綺麗になった愛用のカメラを見る。
軽いメンテナンスなら毎日しているが、
今日は陽射しも良く気分が良かったので特に念入りに丹念に手入れをした。
お陰で新品同様……とまでは言わないまでも
生まれ変わったかのような相棒の姿に私は悦に浸り、
そのままカメラを構えフィルムを入れずそのまま辺りを撮影するかのようにシャッターを切る真似をする。
何の変哲も無い部室だが、綺麗にしたレンズ越しに見ればなぜだか楽しい風景に見える。
そうしているとファインダー越しに彼女と目が合った。
カシャリ
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