夏、一人と一つ

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一学期も終わり、周りの生徒が夏の予定に花開かせている中、 私はいつものように部室に向かう。 夏は暑くて嫌だが、夏休みは遠出もしやすく色々な風景を撮れるから私も好きだ。 アルバムに一枚一枚写真が増える度、私の心が充足していくのが分かるからだ。 特にこの学校に入ってからは好きな時に現像も出来るようになり、まさに至福と言える。 浮き足立つ心のまま部室へ入ると、やはり彼女は居た。 彼女が居着くようになってから一ヶ月以上も経つ、 もはや見慣れた光景に私は特に気にもとめず備品棚を物色する。 カメラ趣味はお金が掛かる。ただでさえ私のカメラは時代遅れのフィルムだ。 調達するのにも難儀していたものだが、幸い顧問に"ツテ"があるらしくフィルムの在庫は潤沢にあった。 時折「デジタルならもっと楽に撮影できただろうに」という思いがよぎるが、 過去にお小遣いやお年玉を貯めてデジタルのカメラを買ったけれど 肌に合わずすぐ売りに出してフィルム代の足しにした記憶が蘇り、それを振り払う。 そうして棚からフィルムを補充していると彼女の視線に気がついた。 もしかして変な顔でもしていただろうか? まぁ、別にクールキャラを装う訳でもないので取り繕うでもなく補充を続ける。 そういえば去年は現像の時にしか部室を開けなかったが、 今年は彼女の為にも部屋を開けておくべきだろうか? しかし、誰も気にとめてない部活の一室とは言えカメラは高価だ。 顧問からも戸締まりと棚の鍵締めは厳重にするよう言われているし、 私としても盗難騒ぎなどでこの場所を奪われたくはない。 だが、彼女とてここが居場所になっているのであれば……と思うとやぶさかではない。 しばし思案した後、私は彼女に部室の鍵を渡す事にした。 彼女なら備品を盗むような真似はしないだろうし、 その気であるならとうの昔にやっているだろう。 なにより同じ場所の仲間として認めたいという気持ちもあったかもしれない。 だから私は彼女に鍵を渡す事にした。
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