「私以外は撮らないんですか?」

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「私以外は撮らないんですか?」

祖父に貰ったフィルムカメラで写真を撮るのが好きだった。 切り取られた一枚に風景と時間が閉じ込められて、 私の物になったような感覚が好きだった。 デジタルはダメだ。 手軽に撮影できるのは利点だと思うが、 まるで私の物になった気がしないからだ。 写真部に入るのは必然だった。 たった一人の部員だったが、誰かとコミュニティを築きたいとは思わなかったし、 なにより今の時代、現像作業が出来る場所は稀少だった。 そこに女の子がやって来るようになったのは偶然だ。 何故、どうして、とは聞かなかった。 一々聞くのは煩わしかったし、私の撮影や現像の邪魔さえしなければそれで良かった。 それが不味かったのか、彼女は部室に居着いてしまった。 いつしか彼女はカメラに興味を持ち始めた。 最初は自身のケータイのカメラで、 次は部の備品であるデジタルカメラで、 色々なものを撮っては私に見せてきた。 他人の撮ったものに興味は無かったが、 なにか拠り所を見つけたような彼女の行為を無下には出来なかったし、 なにより悪くない気持ちだった。 私の卒業まであと僅かと迫ったとある日。 彼女は私のフィルムカメラで撮影したいと言ってきた。 思い出を一緒に作りたいという彼女の言葉は普段を知れば驚きに値する。 ただそこに偶々居るだけの二人だったが、 なにもないまま終わるのも寂しかったのは私も同じだったので素直に快諾した。 そうして今、 彼女は私の古いフィルムカメラで撮影している。 私は彼女がお小遣いを貯めて買った中古のデジカメで撮影している。 特に言葉を交わす事無く撮影している。 寒い寒い冬の最中、彼女と私は無心で撮影し続けている。
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