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ばちばちと耳鳴りがうるさい、笑い声もうるさい、さっきまでようやく救った世界から五十一回目の異世界召喚、彼は思う、一体何回世界を救えば解放してくれるのか、どこの世界が元の世界かなんて忘れ果てている。
油の匂い、肥え太った王様の匂い。
彼がとても嫌いなにおい。それが独裁主義の油の匂い。
目の前には玉座に座ったでっぶりと太った王様があぶらぎった肉を齧っていた。
彼は右手を見る。左手を見る。服従の入れ墨があった。
つまり彼を服従して従わせる呪文も併せ持った召喚魔法のようだ。
彼は大きな欠伸をした。
王様がむかっとする。
「うぬに膝まずけ」
「やだね」
彼はすぐには首を縦に振らない、王様は我慢の限界のようで、服従の呪文をつかった。
それでも彼は土下座しない。
衣服は上半身裸で、下半身は布のズボンだった胴着のようなそれを着ている彼は微動だにしない。
「どういうことだ。賢者大臣、服従の呪文は使ったのだろう?」
賢者大臣と呼ばれた。骨と皮のような体と顔、眼はぎらぎら光り両手にはたくさんの指輪、彼はその後ろにいる執事を見る。その執事と目があっただけで、彼はにやりと納得した。
「独裁の国のようだな」
「そうだぞ、うぬはえらいのだぞ」
「あ、ありえない、服従の呪文は作用してます。そいつが我慢しているだけです」
「ふん」
彼は体を振っただけで、服従の入れ墨が消滅した。
その場にいた全員が悲鳴をあげるもそれに気づかない王様。
「おぬしに命令する。魔王を倒してこい、ありがたきことに倒したら国に帰そう」
男はちらりと王様を見る。
「そうだよ、お前らはそうやって決まり文句を言って返さない」
「おぬし、無礼だぞ」
とでっぷり太った奴隷商人らしき人が叫ぶ。
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