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「……やめてくれっ、パスラ」
──……行きましょう? 伝えるべきことは伝えたわ
「行くなっ……行かないでくれッ!」
──さようなら
「ああぁあぁああああぁぁああああああああッッ──」
思わず咆哮した。
あの時、あの問いに答えてさえいれば、この戦場で汚れきった心を、優しく迎い入れて、包み込んでくれたのだろうか。
君を守るため。君が生まれたこの故郷を守るために戦うと。
そう返答してさえいれば、俺はあの時、目の前で勇者と名乗るものと親しげに腕組みながら立ち去るパスラの姿のむざむざと見せつけられずに済んだのだろうか。
あの勇者の、魂を失ったの如く動かずにただ茫然自失としている俺を下卑た笑みを浮かべながら嘲るような目で見られることなんて無かったのではないだろうか。
何時まで、何時まで戦い続ければいいんだ。
何時振り向いてくれる。
何時あの笑顔を向けてくれる。
何時あの優しい瞳で見守ってくれる。
俺にはこれしかないのに。
戦い続けるしかないのに。
──何時まで人を殺め続ければいいんだ。
「───ッッ!」
雨が降りしきり、何時しか周囲には男の咆哮は響かなくなっていた。
しかし、男は天に吠え続ける。
様々な想いを乗せて。
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