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そんな時だった。
「──風邪、引いてしまいますよ?」
耳元で囁かれた、女声は高く、そして何処か爛漫なものを思わせた。
男は吠えていた口を閉じて、力無く肩越しに後ろを見ると、そこには白髪碧眼の端麗な少女が微笑んで、両腕を後ろに回して立っていた。
着ている白いワンピースは大雨が降り、濡れて肌とくっつくはずなのだが、不思議と一粒の雨粒も付いていないように見える。
「……」
男は少女に誰だと問う気力もなく、ただ少女を肩越しで死んだ目のように輝きがなくなった瞳で見つめ続ける。
「急に降りだしましたよね」
少女はそれに動じることもなく、話続けた。
「私にとって雨は凄く助かるものなのですが、貴方のように人間にとっては不都合なことなんでしょうか?」
「……」
男は少女の問いに答えず、肩越しで見ていた瞳も瞑り、後ろ見ていた目線を戻して立ち上がる。
その場で一回深く息を吐き、目元の涙を腕で拭うと、やがて、側に刺していた斧槍(ハルバード)を掴み抜き、そのまま少女に意を介さずに歩き出した。
「……布、使いますか? 本当に風邪を引いてしまいます」
そんな男の対応に、少し眉を落としたが、少女はめげずに歩く男の横へ小走りで並走したあと
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