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(まさか、いまおれは一冊の本になっているというのか。そしてそれを読んでいるのは、あの執事……)
男はステンドグラスの扉がついた書棚を思い浮かべた。思い浮かべるだけで、すさまじい集中力をつかった。
「そうです」
執事は手にしている「おれという男の本」にむかって語りかけた。
「あなたはいま、本になっています。あの書棚におさまっている本たちは、わたしが見込んだ人間たちの人生の書ですよ。政治家もいれば女優もいる。見込んだ、と言っても、成功者だけではありませんよ。ごく普通の学生もいるし、街角でクツをみがいていた貧しい人だっています。わたしが要求する条件はそれぞれですからね。あなたの祖父のように人生の成功と引きかえにするか、一夜だけの家族の団欒を条件に、人生の書となるか。あるいは、ただ人生のあかしとして書物になることを望む人もいたのですよ」
執事は男の本を閉じた。
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