人間の塔

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 だが、ピーニャは戦場だった。ガタイのいいバルトのメンバーや、通りすがりのカスティ好きたちがこれからくみ上げられる塔の中心に向かって、吸い込まれるように群がっていく。冠木君はもみくちゃにされ、はじかれ、なかなか中心に近づけない。そうこうするうちに、フォルラが出来上がり、三段目が立ち上がる。 「いやあ、まただめでした」  戻って来た冠木君は、汗だくで、はあはあと息をはずませていた。唇が切れて血が出ていた。悲痛な表情だ。  彼が振り返り、見上げたバルトの塔は九段になっていた。アンチャネータのイザベラが頂上にひょいひょいとよじ登り、片手を上げる。成功の合図、アレータだ。 「よ、ベトナム人、今日も見学か?」  若いカスティ選手が通り過ぎざまに冠木君をからかった。冠木君は言い返すことなく、苦笑いでそれに応える。 「なに言われても、気にしません。結果がすべてです。カスティで笑われたら、カスティで見返す。それだけです」  その夜、若い留学生仲間で集まるというので、同席させてもらった。  庶民的なバルに集まった仲間のほとんどはカスティ選手で、日本人もいた。大垣君と円城君はファブロソの東地区の老舗チーム〈カリメロ〉に一年前から所属している。と言っても、二人ともまだ見習いで、本番ではピーニャの後方しかやらせてもらえていないという。大会の賞金がチームに分配されても、見習いはこずかい程度の分け前しかもらえないので、今もアルバイト中心の生活だ。     
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