人間の塔

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   バルトでの公式練習の初日、アパートから出て来た冠木君の顔色は青白かった。緊張でほとんど眠れなかったという。  練習場所は小学校の校庭の隅だった。フェンスよりの狭い場所で、緑のシャツを着たメンバーが週に何度か集う。仕事の都合で来られない者も多く、来るのはいつも半分以下だ。  日本からもってきたにんにく卵黄を食べ、冠木君がいざ挑んだ公式練習は、ピーニャの組み方と、基本的な三人塔の練習だった。練習場所にはロメオの姿もあった。鋭い眼光を若い卵たちに向けていた。  この日の候補生は冠木君を入れて十八人。みな若く、筋肉質ないい身体をしている。女性もいた。ボルダリングから転向したというリンダはひょいひょいと塔の上段に昇り、中段や土台もうまくこなした。彼女はその日のうちに合格が決まった。  逆に、肩を叩かれた候補生もいた。不合格になると、ファブロソ・カスティ協会のリストに記録されるので、他のチームを受けても当年度はまず受からない。ファブロソ以外の町のチームに行くか、来年の入団シーズンまで待つしかない。  十八人のうち、初日で残ったのはリンダを入れて十二人だった。その中には冠木君もいた。     
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