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「まずは、第一関門クリアです」
帰り道、彼のほっとした表情を見て僕も安心した。彼が疲れていたので、その日の取材はそれで切り上げた。次の公式練習参加は三日後だ。試験期間は、長ければ二か月以上つづくという。生き残りを賭けたサバイバルはまだ始まったばかりだ。
次の日、広場で会った冠木君は昨日までとはまるで雰囲気が違っていた。
背筋は伸び、つぶらな目は遠くを見ていた。見習い以前の候補生としてだが、バルトの一員として練習に参加しているという事実が彼に自信を与えたのだ。
冠木君は、人の海をかき分け、ワンの所属する名門チーム〈サイクロプス〉のピーニャの中心に入って塔を支えた。それどころか、一段上がり、フォルラに入った。
十段塔が完成し、解体されたあと、鼻血を垂らしながら戻って来た冠木君はひとまわり大きく見えた。
「やったな、ベトナム人!」とこの前の男が声をかけてきた。
「ベトナム人? ちがう!」
冠木君は男に向かって叫んだ。
「おれは日本人(ハポネス)だ!」
そばにいた男たちは片腕をアレータのように掲げて、冠木君の健闘をたたえた。
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