人間の塔

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 そうして、カスティに魅了された教育関係者が目指したカスティを野球やサッカーに並ぶ日本の国民的スポーツにするという夢はついに叶わなかった。  一説では、カスティに競技人口を奪われることを懸念した他のスポーツの競技団体による政治的裏工作だと言われている。世界トップクラスのサッカーチームをいくつも持つスペインの現況を見れば、それは杞憂だったと言えるが、それだけカスティ人気の勢いがすさまじかったのだろう。  僕が初めて生で本物のカスティを観たのは、珍しい祭りを取材しながら南欧を旅していたときのことだ。  そこはスペイン内陸のファブロソという小さな町だった。カスティ大会は年がらスペイン各地で開かれているが、その町では毎日がカスティ大会のようなものだった。カスティの強豪チームがひしめき、日々、広場や公園で公開練習や合同練習が行われている。  いわばカスティの聖地であるファブロソの人々は、普段からカスティのユニフォームである白いズボンにチームカラーのシャツを着て過ごし、時間と場所さえあれば、いつでもカスティを始める。街を歩く若者は、見知らぬ者同士でも、目が合えば即興のカスティを組む。長い昼休みも、食事を終えれば彼らにとってはカスティの時間だ。広場や、公園や、歩道や、ときにはビルの屋上や道路の真ん中で、大小さまざまな人間の塔がそびえ立つ。     
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