人間の塔

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「若い頃は、よく仕事さぼってそこらで基礎土台(ピーニャ)二人塔(ドスス)を組んで、親方に見つかってどやされたよ。『馬鹿野郎、ピーニャの組み方が甘いんだよ』ってな」  と笑いながら語った初老の男性ロメオは金物工房の主人で、たくましい二の腕が今でも現役のカスティ選手であることを物語っていた。  彼の孫娘のイザベラは六歳で、今年カスティデビューしたばかりだった。彼女はロメオと同じ地元チームに所属しており、塔のてっぺんに登る最後の一人「アンチャネータ」に選ばれた。  カスティ選手にとって、子供の頃にアンチャネータや上から二段目の「アッチャカドー」を経験するのとしないのとでは大違いで、すべてのポジションを経験した選手にはカスティの神の加護が降りるとファブロソでは信じられている。少年の頃から大柄で、土台ばかりだったロメオにとって、イザベラは希望の星だった。 「カスティはただの組体操じゃない。文化であり、生き方であり、哲学なんだ。俺たちは生きている限りカスティを組みつづける。それがファブロソの男ってもんさ」 「私は女よ」と言うイザベラの頭を撫でて、ロメオはやさしく微笑む。 「女も一緒さ」  そんなロメオも十四歳でカスティをはじめるまでは、どうしようもない不良だった。片親で貧しく、体力だけが取り柄だった彼は、喧嘩やカツアゲに明け暮れ、警察に保護されるたびに父に殴られた。     
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