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父のジャンは建築資材を運ぶトラックの運転手だったが、仕事そっちのけでカスティにのめり込んでいた。そんな父とカスティをロメオは憎んでいた。家が貧しいのも、母が病死したのも、すべてはカスティのせいだと信じていた。
そんなある日、ジャンが仕事中の交通事故で病院に運ばれた。一命はとりとめたが、二度とカスティはできないと医者は言った。カスティのメンバーによると、連日の練習で疲労がたまっていたのだという。なぜそこまでカスティに打ち込むのか。その理由をジャンの友人であるセバスチャンからロメオは聞かされた。
ロメオの母マリアは幼少期からカスティを愛しながらも、末期癌で引退せざるをなかった。ロメオを産んだあとも、病室の窓からカスティ会場である広場の方向を眺める日々がつづいた。そこからでは、建物がじゃまでカスティの様子は見えない。そこで、チームリーダーだったジャンは、建物の屋根の高さを超える十二段塔の完成を目指した。
結果は――失敗だった。塔は倒壊し、多数のけが人を出した。彼自身は軽症で済んだが、セバスチャンは二度とカスティを組めなくなるほどの大けがを負った。
ジャンは責任を取るために引退を表明し、子育てと妻の看病に勤しむようになった。
半年後、マリアは今わの際で、ジャンにカスティ選手への復帰を勧めた。
「十二段塔を完成させて。あなたならできるわ」
セバスチャンも言った。
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