人間の塔

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 彼はファブロソに来て二か月になる。簡単な技術審査と体力テストであるファブロソ・カスティ協会の共通一次試験はすでに通過したが、まだチームには所属していない。プロチームのカスティを見学したり、ちょっとした練習に参加させてもらえることはあるが、正式にチームに入るには、厳しい入団テストをパスしなければならないのだ。  彼はバルトのテストを受けようとしているうちの一人だった。  テストの方法はチームごとに違い、日を決めて実技試験を行うチームもあれば、候補生として練習に参加させ、リーダーが認めた時点で合格、だめだと判断された時点で不合格、というものもあった。バルトは後者で、冠木君は三日後の公式練習への参加が決まっていた。  冠木君の狭いアパートの部屋には、ルームメイトがほかに二人いた。中国人のワンとドイツ人のヨハン。二人ともファブロソ留学だが、彼らは冠木君と違ってチームに所属している。十代で、体重が軽いと、上層要員として入団試験が緩和されるのだ。 「年下ですけど、先輩です」と冠木君ははにかんだような笑顔を見せた。  部屋には二段ベッドがふたつ。クローゼットと机は共同。三階の部屋からは、カスティを思わせる尖塔を擁した聖堂や庁舎が見える。空いているベッドには、先週までチェコ人のカスティ留学生がいたが、レギュラーになれず、あきらめて帰国したという。 「しょうがないです。彼の分までがんばります」と冠木君は言った。「うちも、親や兄貴が帰ってこいっていつもうるさいですけどね」     
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