偉大なる旅路

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 駱駝たちは一路、フランスとの国境を目指す。車道を走る駱駝の群れはどこか滑稽だった。駱駝に限らず、人を乗せた家畜は「軽車両」の扱いだから、車道を走っても、自動車の制限速度を超えても法的に問題はないが、駱駝が車と並走してパニックにならないか心配だった。  市街地に入ると、人や車はみな驚いて道を開けていく。逆に混乱して、座り込んで動かなくなる駱駝もいた。人身事故を起こしたら大変なことになるだろう。ある意味、ヨーロッパの街並みがいちばんの難所かもしれない。そういう意味でも、ビクーニャはリスクが少ない。これもアギーレ監督の計算なのだろうか。  しかし、南米系の少女を乗せた鹿のような生き物が道路を走っている姿をなにも知らない通行人が見たら、警察に通報されるかもしれない。大会運営スタッフの一員として、そのへんは僕も気を付けなければならない。  僕は事務局が用意したオフロードバイクを借りて俊足のボルヘスを追いかけた。つきっきりでなくてもいいのだが、不測の事態に備えるため、見通しの悪い市街地では並走することにした。  スペインに入ってはじめの目的地マラガまでは、地中海を右手に、国道をひた走る。車で二時間程度の距離だが、駱駝だと半日以上かかる。先は長いので、今日中に到達できれば御の字だ。  午後九時32分にマラガに着いたとき、ボルヘスの順位は50位にまで落ちていた。遅れてアルヘシラスに入港したチームにも抜かれてしまった。     
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