偉大なる旅路

18/35
前へ
/39ページ
次へ
 原因は、ボルヘスが慣れないアスファルトの道路で後脚を痛めたことだ。  特別に市から貸し出された公園の芝生で、ほかのチームの駱駝たちとともに横になるビクーニャと、座りこんでその首を抱く華奢な少女。ディエゴがポータブルの照明器具を頼りに応急処置を行う。 「目標は完走だ。無理はさせず、しばらく休ませよう」とディエゴが言った。 「しばらくって?」ミランダが腰に手を当てて言った。ガブリエラにも劣らず小柄だがアスリートのように筋肉質な彼女は、医者というより軍人に見える。 「5日は様子を見たいところだ」 「引き離されるわね」  一定期間ごとに、マカオまでの距離による順位が下位三割以下のチームは失格となる。先は長いが、なるべく上の順位にいるほうが安全なのだ。 「野生動物は回復が早いとはいえ、徐行でもレース復帰は3日後ってところだな」 「そんなのだめよ!」  ガブリエラが言った。 「はやく行かなきゃだめなんだから!」  ガブリエラの剣幕にアギーレ監督は、一瞬、戸惑いの表情を浮かべた。 「先は長い。今月中にイタリアに入れば十分だ」  ガブリエラは納得がいかない様子で、次の日も、メンバーの静止を聞かず、早朝から公園でボルヘスの騎乗をはじめた。     
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加