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ガブリエラを発掘したのはアギーレ監督ではなく、当時彼の助手をしていたミランダだった。休暇で訪れたアンデスのトレッキングコースで、ビクーニャに乗って風のように野山を駆け抜けるガブリエラを見て鳥肌が立ったという。
「あの騎乗の才能が彼女に自信を与えているのは確かよ。将来は世界を代表する騎手になるわ」
賞金のついた駱駝レースはほかにも数多い。短距離ならアラブ諸国の競駝、長距離だと、オーストラリア一周レース、ゴビ砂漠カップなど。
「でも、彼女が乗れるのはボルヘスだけでしょ? ビクーニャは人になつかない。彼女は成長して体重も増えるし、そのうちボルヘスも年を取って騎乗に耐えられなくなる」
「彼女はヒトコブラクダやサラブレッドも難なく乗りこなしたわ。乗馬は私もかじってるけど、はじめて乗った馬をあそこまで操れるなんて、才能なんてものじゃないわ。いいえ、操ってるんじゃなくて、一体化しているというか」
僕はガブリエラが話していたイタリアで逃げるという計画をミランダに話すべきか迷った。話すことで、ガブリエラが幸せになるのか、そうでないのか、そのときの僕にはわからなかった。
傍観者であること――それがワタリガラスの役目だ。迷ったときは、職務の基本に立ち帰るべきだと、いつか誰かが言っていたのを思い出す。
「砂漠じゃ、私のバイクもうまく乗りこなしてたわ」
「無免許運転じゃないの?」
ミランダは苦笑いした。
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