偉大なる旅路

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 前回優勝者のUAEのチーム「オアシスのタンポポ」の監督兼筆頭騎手のモハメド・アフマッドは、本当のレースはヨーロッパを過ぎたところ、つまり、イスタンブールから始まるのだと語っていたが、まさにそうだ。ふるいにかけられて残った本物どうしの、しのぎを削るサバイバルがこの先に待ち受けている。  そんな壮絶でタフなレースを僕は最後まで見届けたかった。  ミラノに着くと、一日の休息をとった。その夕方、ホテルの屋上テラスに上がると、ガブリエラが丸テーブルに肘をついて、ひとりで夕日を眺めていた。ほかのチームメイトは物資の調達のために町に買い出しに行っていた。 「どうしよう」  ガブリエラは僕を見つけると、すがるような目で僕を見た。 「みんなと離れたくないの」 「マカオまで一緒だろ。あと三か月ぐらいあるじゃない」 「あなたにはイタリアで逃げるつもりって言ったよね。それは半分嘘だったんだけど、本当になりそうなの」 「どういうこと?」 「モロッコでも、スペインでも、フランスでも、私は隙を見て逃げるつもりだった。でも、チャンスがなかったの」 「イタリアで逃げるつもりだと僕を欺いたってわけか」 「あなただけじゃない。ミランダにはタンジェに着く前に逃げるって言ったわ。ハメスにはバルセロナで、ディエゴにはマルセイユで逃げるって宣言したの。でも、みんな、約束どおり、誰にも話さないでいてくれた。ハメスがバルセロナで私のために朝から市場に食材を買い出しに行ってくれて、帰ったら私の好きなものがぜんぶあって」     
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