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「私はミラノを過ぎたら、そのまま北に行くわ。アルプスを超えて、どこまでもまっすぐに北に。バーゼルに着くまで」
彼女の目は覚悟に満ちていた。
ウエイターが近づいてきて、僕らは黙った。なにか飲み物はいかがですか、と訊かれ、僕はコーヒーフロートを、ガブリエラはレモネードを頼んだ。
ガブリエラを連れて飛行機でこっそりバーゼルへ行って帰ってくることも考えたが、ハゲタカにばれたら僕だけでなくチームも失格になる。
「言ってもいいわよ。みんなに。でも私はきっと止まらないから」
その夜、ホテルの庭につながれていたボルヘスの細い首をずっと抱きしめているガブリエラの姿があった。
翌朝、ホテルじゅうに響きわたるボルヘスの鳴き声で目を覚ました。
好物のレモネードを途中まで飲んだグラスを部屋に残して、ガブリエラは姿を消した。散歩に行ったのでないことは、ミランダのバイクがなくなっていたことでわかった。
バーゼルに向かったのだ――僕はチームに黙っていたことを悔やんだ。言うべきだった。
「みんな、ごめん、実は」
「わかってるわ。バーゼルでしょ。彼女の部屋のドアに置手紙がはさんであったの」ミランダは言った。「ワタリガラスさん、ルール上、監督以外のメンバーがチーム離脱とみなされるのは、駱駝から30キロ以上離れたときだっけ?」
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