ハングリーエイプ

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 猿たちが降りて軽くなったバスは、運転手の「発車しまぁす」というけだるい声とともに、また走りだした。  僕は窓の外を眺めた。緑地公園の入口に向かって、黒い固まりになって走って行く猿の群れが見えた。 「あの群れは、昨日も見ましたねえ」  前の座席に座っていた白髪の老人が、となりの老人に向かってそう言った。 「公園で清掃をやっとるんです」  ハンチング帽をかぶった老人はそう答えると、窓の外を憎らしげに一瞥した。 「仕事を奪っていきよるんです」 「しかし、この暑いのに、熱心なことですなあ」 「ふん。強欲なだけですわい」  やがて、バスは終点の駅に着いた。  駅前広場にも猿たちはいた。通勤者に混じって、ちょこまかと動き回っていた。掃除をしているのだ。二十匹ほどが、人混みをすり抜けながら、紙くずや空き缶などを拾い、リーダーらしき猿が持つゴミ袋に集めている。  わざと吸い殻や新聞紙を猿の目の前で捨てていく通勤者もいたが、猿たちは気にすることなく、我先にとそれらを拾って、ゴミ袋に捨てに行く。  素早く、手際が良く、無駄口を叩かずにせっせと労働するその様は、不覚にも見ていて清々(すがすが)しさを感じてしまう。今は、毎朝のこの光景を見ないと、一日が始まった気にならないほどだ。  その日は仕事中も猿の群れに出くわした。     
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