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帰りは酒に酔いつぶれようと思っていたが、話がよく進んだおかげであまり酒を飲むことができなかった。そのおかげか、周りの連中よりは意識がはっきりしていた僕は、早々に皆と離れて帰途に就いた。祝日だということもあり、繁華街はいつもより人の数が多いように見える。コンクリートをかすめるように歩いていると、不意に後ろから声がした。
「ねえ、」
「うわっ、なんだよ、田口か…。」
田口とは長い付き合いだ。小さいころからずっと一緒にいて、高校の時初めて付き合って…そのあと、別れた。というよりも、いつの間にかお互いに連絡を取らなくなってしまった。最後に田口と話したのは、昨年の春だったように思う。
「わたし、いつのまにかおばさんになっちゃいそうだよ」
「そんなことないだろ。確か今年で27だったよな?」
「…あーあ、あの時ちゃんと言っとけばよかったな」
「何をだよ」
「高校の時から私の気持ちは変わんないよ、って」
僕はその言葉を聞いてとても驚いた。だって、離れるきっかけを作ったのは田口のほうじゃないか。大学を卒業して離れたところに就職してから、今の仕事に専念したいから、とか言って僕を煙に巻いて…。いや、今になって思えば、あれは僕の考えすぎだったのかもしれない。田口だって新しい暮らしの不安をたくさん抱えていただろうに。きっと僕はもっと、彼女の立場に寄り添って、彼女の言葉を受け止めてあげるべきだったんだ。
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