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あたりは一層暗くなろうとしていたが、煌々と照る街の灯りがそれを許さないようだった。田口が黙ってしまったので、僕はジャケットの裾を翻して、すこし足を早めた。ビルとビルの境目から、ぽつんと光るオリオン座のリゲルが見えた。新月の日だからだろうか、やけに星の輪郭がはっきりとわかる。冬ももう近いんだなと思った。しかし、紅葉した楓の葉がそこかしこに落ちずに残っているのを見ると、それでもまだ秋なのである。
「何となく、アンバランスな空間にいる気がするな」
「わからないよ」
僕はそうか、と笑って田口のほうを振り返った。田口はきまりが悪いのか、僕とまったく目を合わせてくれない。僕はもう一度前を向いて、芝居めいた口調で言った。
「しかし、こうして歩く間隔は、制服のころと何一つ変わっちゃいないな。俺が前を向いて進む、田口がそのちょっと後ろをついてくる。ローファーとスニーカーの雑踏が、ネオンのざわめきに代わっても、俺たちはなんにも変わらないままだな」
「できれば、変わりたく、ない」
「そうだよな。俺たちは結局、これ以上踏み込むことができなかったんだ、お互い臆病者だよな。…どうだ、もしこのあと暇ならもう一軒行くか」
「変わりたくなんて、ないのに」
「…そうだな」
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