第一部 私の右手にできること

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第一部 私の右手にできること

 私をはじめて見る人は、皆一様に同じ表情をする。その目はこう言っている。  すげえ。でっかい女だなあ。  おかげで私は容姿の良し悪しを問われたことがない。男が女を評価するときのマトリックス、可愛い―可愛くない・性格が良い―悪い、のどこにも私はプロットされない。私の分類は唯一つ、デカイ女、それだけだ。  祖母がドイツ人だった。東北帝国大学の招きで北海道を訪れた民俗学者で、伝統工芸品の収集家だった彼女は、後の北大に膨大な数の工芸品と民族衣装のコレクションを、一方私には、雄大すぎる骨盤と背骨を遺しこの世を去った。  そのことを恨みに思ってはいない。私は私の自己認識が、くだらないコンプレックスでしかないと知っている。この身体のせいで損をしてきたとも思わない。  私は男の欲望の対象にこそならなかったが、女であるがゆえのハンデを感じたこともない。両足を肩幅に開いて腰に手をあて、色素の薄い瞳で斜め四十五度の角度で見下ろしてやれば、たいがいの男は威圧感を感じる。何をさせたって私は男には負けない。男子の注目を浴びようとして右往左往する必要もない。     
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