春、肉まん

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 食欲がチクリと刺激される。 「えっ、いや、……悪いから、いいよ。気にしないで食べて」  しかし僕は湧き立つ欲求を振り払い大人の対応を選んだ。  けれど女の子は引かない。  困ったように眉を寄せて僕に肉まんを差し出てくる。 「でも……!」  ぐいっと押し出されるように向けられた肉まん。  香り立つ具が食べて欲しそうにこちらを見ていたが、僕はふるふると頭を振った。 「いいのいいの。……いつも美味しそうに食べてるでしょ?」  あっ、と思ったときにはもう遅い。  それを言うつもりなんて無かったのに。  これでは『いつも見ていました』って告白してるようなものだった。 「み、見られてたんですか……」  ────そりゃあんな風にコンビニの前で立って肉まんを食べていたら。見られていない筈がない。  案の定、女の子は顔を真っ赤にして俯いてしまった。  耳まで赤くしていてとても可愛いのだが、僕は更にフォローのつもりで言葉を重ねる。 「……あんな美味しそうに食べるもんだから、残念な顔をさせたくなかったんだ」  言ってる途中で胸の奥から熱が染み出して身体がぽっぽっと火照ってきた。顔まで熱い。  何というかキザっぽい台詞だ、恥ずかしくて仕方がなかった。     
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