春、肉まん

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 だが、残念ながら吐き出した言葉はもう取り消せない。  そよそよと視線を泳がせて俯いていた顔がそっと上げられたが、僕は女の子の反応を待たずに去ろうとした。 「…………えへへ、じゃあ……美味しいのおすそ分けならどうですか? 今、お兄さんと食べたらきっともっと美味しいです」  そう言って照れ笑いを浮かべた女の子の頬に桜色が乗った。  ────なんて殺し文句なのだろう。  正直、ときめくようなセリフだった。  そんな風に言われてしまったら、断れるわけがない。 「……うん、そうだね。じゃあ、ありがたく頂戴するよ」 「────! はい、どうぞ!」  僕がようやく片割れを受け取ると、女の子の表情がぱぁっと花開いたように明るくなった。  嬉々とした感情が滲み出ている。柔らかな風に吹かれて揺れるポニーテールまで嬉しそうだ。 「じゃあ、こっちで一緒に食べようか。まだ時間大丈夫?」 「はいっ、だいじょぶです!」  ここで立ち止まっていたら邪魔だろうと、僕たちは街道の端に寄って食べることにした。  ちょうどそこに自販機があったので、手に持っていた缶の中身をくいっと飲み干してゴミ箱へと捨ててやる。  僕は口の中の苦みに耐えながら、ニコニコ笑顔の女の子と自販機の前に並んで立った。     
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