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それから一度見つめ合って照れ臭そうに笑い合って、────息ぴったりに一言放つ。
「いただきます」
「いただきます!」
レジ前での出来事のように、僕の声と明るく元気な女の子の声が重なった。
二人そろってぱっくんと一口かぶり付く。
やはりというか、肉まんも冷めてしまっていた。
ほかほかだった筈の中身に温かさが無い。
それでも美味しいと思った。今まで食べた肉まんの中で一番だ。
先ほど言われた女の子の台詞を思い返す。
────今、お兄さんと食べたらきっともっと美味しいです。
「んー……やっぱりおいし! 誰かと分け合って食べる肉まんって最高ですね!」
女の子はいつものあの表情を見せていた。
ぽっと頬を桜色に染め、至福に蕩けた瞳、もぐもぐと肉まんを噛み締める薄紅色の口。
肉まんもそうだが、彼女の表情も今までで一番幸福さに溢れている。
蕩けた瞳がちらっと僕を見上げるものだから、ドキッと心が跳ねた。
「────ねっ? お兄さん!」
向けられたそれはまるで桜のような表情だった。
太く大きく枝を広げて満開に咲き誇る桜。
そんな笑顔が春の陽射しのように柔らかく僕の胸を射抜いたものだから────心臓がとても苦しい。
僕は口の中に残っていたものを無意識に飲み込んだ。
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