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「……さん、……さん、ちょっといいですか、」
「…………あ、はい」
パチン…
「……っ、は」
気づけば長時間その人と目を合わせていて、彼が誰かに声を掛けられてどこかへ去るまで、まるで催眠術にでも掛かけられていたかのように、僕とその人はずっと目を合わせていた。
彼がそこにいなくなってから、僕はようやく息する事を思い出し、そのとき初めて呼吸するのを忘れていた事に気が付いた。
周囲に怪しまれないように、は、は、と息を小出しに吐いて、僕は呼吸を整える。まるで時間が止まっていた。
急にその目線の縛りから解かれ、氷が溶けていくみたいにじわーっと全身に熱が緩んでいくのを感じて、急に汗が吹き出てきた。
突然、人と目があって、離れなくなってしまった。
こんなこと、はじめてだった。
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