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「…え?こんな時間に?」
想定外のその答えに、僕は驚いてそう聞き返す。
「、うん」
「…………………なに、仕事?」
あまり踏み込んだことは聞かないようにしていたのに、思わず、長い沈黙の後についそう聞くと、彼は「…、そんなんじゃないけど、」と曖昧な返事をしながら簡単にベッドから起き上がり、「ちょっと充電できたから、」とか言いながらリビングの方へと歩いていってしまった。
…充電…。
内心、一つ一つの言葉が頭の中に残響しながらもとりあえず亜砂の後を追う。
相変わらず、時計の針はもう十分深夜と呼んでいい時間を指している。
考えてみれば手荷物すら持ってきていなかった亜砂は、玄関の脇に掛けてあったコートに袖を通して、しっかり上までチャックをしめる。きっと外はさっきよりももっと冷え込んでいるだろう。
「なにで来たの?」
「自転車。」
「え?ここまで?」
「そうです。…ここ、近いから。」
…一体、何処からのことをいっているのだろう。…そう思っても、聞くことができない。
「…あ。もしかして、アパートの下にあった黒いジャイアント、亜砂の?」
「あ、そうです。」
ふとピンときてそう聞いてみると、彼が靴を履きながら平然とそう答える。よく見てみれば、靴だって動きやすそうなスニーカーだ。
「へぇ、じゃあ普段から乗るんだ。」
「…まぁ、…基本自転車で移動してます。」
「意外だなぁ、運動しなさそうなのに。」
「…歩くと誘惑が多いので。」
内心、(誘惑…?)と思いつつも、なんとなく「へぇ、」と相槌を打つ。
「…じゃあ、お邪魔しました。」
靴を履き終え、彼が玄関を開けてそう言う。さっきまでの甘いムードを断ち切るようにビュウっと一瞬で冬の風が部屋の中へ流れ込み、僕は思わず「さむ、」と呟く。こんな中一人で行かせるのか、と思いつつも、彼のことをどこまで心配していいのかも分からない。
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