6.温度(風愉side)

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あの日を境に、彼は僕の家に訪れるようになった。 あの日から数日経った日の夜中、まるで家に帰ってくるかのように亜砂は眠そうな目をこすりながらうちへ来た。 自分は原稿を書きながら亜砂と一緒にお茶を飲み、その後、今度はシャワーを浴びてからちゃんとベッドで眠りについた。僕も明け方に仕事が終わり同じベットに入ると、起きた時には彼の姿はもうなかった。 そのまた数日後、今度は自分が起きると亜砂が隣に寝ていた。夜のうちにベッドに潜り込んで寝たみたいで、僕は亜砂を起こさないように用事へと出掛けた。 そんななんのたわいもない日々が続いた。 毎日くるわけじゃないが、連日来たりする時があったり、1日空けたり、いずれも継続して彼は不定期的に僕の部屋に訪れた。来る時間が決まっているわけでもなかった。 夜、僕のベッドに寝る為だけにきたり、本当に本だけを読みに昼間くることもあった。その時にあまり話すことはなく、差し障りもない会話を交わし、恋人たちと同じように一緒にソファでまどろんだり、抱きしめあいながら寝たり、当たり前のようにセックスをしたり、別れ際には挨拶のキスだってした。本当に、何も変わらない、穏やかな、拍子抜けするほどの幸福な日々が続いた。 まるで一緒に住んでいることなんら変わりはなかった。 ただ、彼の事を僕は、依然と何もしらない。 そこには彼がいる空間がいつも存在しているだけだ。 もはや彼が何者かなんて僕たちの間で重要なことでは無くなっていた。
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