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亜砂は、強請った割にその様子を何も言わずに横で黙って見ていたので、僕はいつもと変わらずにゆっくりと煙草を味わっていた。しかし、煙草が短くなってきた頃に、亜砂が僕に急に擦り寄ってきて、首のあたりに鼻をくっつけて、ひとこと、「…いいにおい。」と呟いた。
僕は思わず、煙草を口から離して彼にキスをする。それは、さっきとは違う、深いキスだった。その時には、彼はトロンとしたもうどうしようもないくらい甘い目をしていて、僕は自分で抑えられないものを感じた。凭れ込むように、彼を絨毯の敷かれた書斎の床に押し倒す。彼の上に灰が落ちないように、煙草は遠くへ避けたまま。
「ここで犯して。」
煙草をすり潰そうと身体を一度離すと、彼が僕の腕を掴んでそういった。僕は、ここは寒いよ、と彼に伝えると、彼が濡れた目で僕を見ながら「ここの方が体温が馴染んでいくのが分かるから。」という。
僕は思わずその言葉に唾を飲む。そんなセリフどこで覚えてきたのだろうか。いや、きっとそれは紛れもなく彼自身の言葉だ。彼は僕の事をどうしようもなく熱くさせる。
彼のいう通り、寒い部屋でのセックスはいつも以上に互いの体温に貪欲になっていたように感じる。触れたところから、相手の体温が乗り移って行くように、触れた粘膜から互いの境界線が溶けて行くように僕たちは交じり合った。
途中から寒さの事なんてもうどうでもよくなって、そこに彼がいて今こうして腕の中にいることに対する幸福感と、もうこれ以上のものはないだろうという果てしなさを感じて何も考えられなくなった。
彼に対して僕が抱いているものが、今まで獲得してきたどの感情にも当てはまらない。
ただ、僕は、彼を一目見た時からずっとこうしたかった。
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