第4話:君の笑顔が見たくて

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 縦十五㎝、横二十㎝というA5のサイズは、大きすぎず、そして小さすぎずという感じで、筆談には程よい大きさだった。筆談のたびに葵からもらうこの紙を、僕は捨てることができず、家に持ち帰り自分の机の引き出しの中にしまっていた。 『買いたいものがある』  このまま帰ってしまうのもなんだか寂しかったし、かといって、これから何をしたらよいか良く分からないでいたから、葵ともう少し一緒にいられることが単純にうれしかった。  僕らは池袋駅に直結している商業施設内の雑貨屋に向かった。そこで、葵が手に取ったのが手帳だった。A5サイズのピンク色の手帳。帰りの電車の中で、彼女は買ったばかりの手帳に何か書いていたが、別れ際に、その手帳を僕に渡してきた。 『今日はありがとう。沢山の星を見ることができて、幸せな気分でした。栃木の空もあんな感じなのかな? いつか見てみたい』そして最後に小さく『この手帳で、交換日記をしよう?』と書かれていた。 「ああ、もちろん」という僕の返事に、葵が作った笑顔は今でも忘れることができない。僕の前で初めて見せてくれたあの笑顔を、僕は何度でも見たいと思った。
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