第5話:一瞬の勇気か、一生の苦しみか

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 日記を続けることが彼女の負担になっていないだろうかと、僕は彼女を気にしたつもりで言ったのだが、彼女は僕が日記をやめたいと勘違いしてしまったことも原因だったかもしれない。とにかく梅雨が始まるくらいから状況はあまり良くなかった。  ある日、帰り際に学校の廊下で手渡された日記には、一言だけ『死にたい』と書かれていた。背を向けた葵の後ろ姿に、僕は「葵が死んだら俺は悲しい」と、いつもより大きな声でそう言った。  そんな僕の声に、葵は歩みを止めたけれど、こちらを振り返ることはなかった。ただ生きることが苦しい、当時の葵はそんな苦しみの中を歩いていたに違いない。生きていてよかった、そう思える瞬間をどうすれば手に入れられるか、僕は諦めずに考えたいと思っていた。 ★  梅雨が明けるか明けない頃だっただろうか。まだ曇り空が続く虫暑い日だった。学校の帰りに、僕は見知らぬ女子高生に声をかけられた。自分の通う高校の生徒ではないことは、制服を見てすぐにわかった。とはいえ、いわゆる逆ナンパではない。あまりに突然のことでびっくりしたが、よくよく話を聞いてみると葵の中学時代の同級生ということが分かった。葵が連絡を取り合っている数少ない友人の一人。話があると連れられた先は、近くのファミリーレストランだった。 「あんたが葵の彼氏?」     
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