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第1話:泣いている瞳の裏側で
岐阜県は高山市。北東部に飛騨山脈を擁し、槍ヶ岳や穂高岳などの山々を望むこの地は、日本の原風景を残す街などと言われ、国内外から観光客も多い。
JRの高山駅から東側にしばらく歩くと、大小複数の寺がひしめく、古い街並みが見えてくる。毎年8月になると僕はここを訪れるのだが、歩く道はいつも決まっている。東山白山神社の石段を上り、寺と寺のあいだに張り巡らされた、細くて狭い路地を抜けていく。
「今年も暑いな……」
岐阜の夏は暑い。特に四方を山に囲まれたこの高山は典型的な盆地であり、日本全国でも屈指の猛暑地である。
僕はペットボトルのスポーツドリンクを一気に飲み干すと、今登ってきた石段をゆっくりと振り返った。石段の両脇を杉の木々が囲み、眼下には飛騨の小京都、高山の街並みが見渡せる。汗でぬれた頬に、スッとあたる弱い風が心地よい。
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