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いつまでもそのままで
A「ねえ、今の見た?」
B「今のって?」
A「リスだよリス!あそこの木の枝に・・・」
B「いやあ、見てなかったなぁ」
A「残念だね!すごくかわいかったのに。でも写真撮ったからあとで見せてあげる」
B「別にいいよ。そんなに珍しくもないし」
A「えっ、そうかな?」
B「リスってさ、森のあちこちに木の実を隠すんだ。で、そのうちのいくらかは忘れ去られて、いずれ芽を出すんだ」
A「へえ、リスって忘れっぽいんだね」
B「そう。かわいいけどちょっとアホ。そこがまたかわいいんだよ」
A「でもおかげで芽生える木もあるわけだ」
B「そういうこと。リスの忘れっぽさは森にとって役に立ってるんだよ。まるで君と僕の関係みたいだよな」
A「・・・意味がわからないんだけど?」
B「君は用心深くいろんなとこにお金を分けて隠すけど、そのまま忘れてるときがある。僕はそれを定期的に回収して、自分のポケットをうるおす」
A「えっ、ひどい!そんなことしてたの!?」
B「そうひどくもない。だって放っておいても忘れられたままだし、僕はちゃんと持ち主の君にも還元している。この山林に紅葉を見に来たのだって、君の忘れた蓄えがあったからこそなんだよ」
A「えー、今回の旅行資金は全額持つとか言ってたくせにー」
B「持ちつ持たれつ、生きていこうよ」
A「うまいことまとめたつもり?言っておくけどあたしはリスほど忘れっぽくないからね!」
B「わかってるよ。でもさ・・・あっ、子リス発見!!」
A「えっ、どこどこ!?」
嬉しそうにきょろきょろする彼女に向けて、僕は心のシャッターを切る。いつまでもそのままでいてほしいと思いながら。
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