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「先生。もう今日はお酒、止めておきましょうね…」
ママは「先生」と呼ばれた男のグラスを取り上げる様に引くと、ボーイに渡した。
「馬鹿言うなよ…。全然酔ってないし…」
立ち上がりふらつく男は、横で支えるホステスと一緒にソファに倒れ込んだ。
ホステスの叫ぶ声が店内に響く。
その様子を別の席から見ている男がいた。
服で上手く携帯電話を隠し、カメラで撮影している。
「毎晩こんな感じなのか…」
男は隣に座る男に訊きながら、グラスの酒を飲む。
「ああ、ほぼ毎晩だな…。いつ書いているのか不思議なくらいです…」
その男はピスタチオを口に放り込むと、ニヤリと笑った。
「デビューして十年。鳴かず飛ばずでやって来て、二年程名前を聞かなくなったと思ったら、復帰第一作目が大ヒットだ。映画化、ドラマ化、コミック化…。そりゃ羽振りも良くなる訳ですね…」
携帯電話をテーブルに置いて、ニヤニヤと笑いながら薄くなった酒を飲み干した。
「ありがとうよ…。ジワジワ攻めさせてもらうよ…」
男はポケットから封筒を出してピスタチオの皿の横に置いた。
「毎日この有様で、あっと言う間に復帰二作目の発表だ。椎名崙土先生がご自分で書かれてるとは思えなくて…」
男はピスタチオを口に放り込んで、その封筒を上着のポケットに入れた。
「またいい話あったら教えてくれ…」
そう言って携帯電話をポケットに入れると立ち上がった。
男はピスタチオの殻をむくとその男を見送った。
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