43人が本棚に入れています
本棚に追加
「これって、雨三部作の最終ですか」
和美は頷く。
「私もまだ読んでないのよ…」
「いいなぁ。データは無いんですか」
魚住は必死にページを捲った。
「まだないのよ…。校正前だしね…」
和美は自分の椅子を引き寄せて座った。
「ほら、そんな事良いから、帰るわよ…」
「野々瀬さんは良いですね…。俺なんて新人とか新人以前の作家志望ばっか相手させられて、こんな発表前のプラチナ原稿読む事なんて皆無ですからね…」
魚住は興奮しながら原稿を捲って行く。
「これ、今晩一晩貸して下さい」
「もう…。コピーとかしちゃダメよ。編集長にも、まだ報告してないんだからね…」
和美はそう言って立ち上がった。
「じゃあいいのね。私は帰るわよ」
魚住は返事もせずに椎名崙土の原稿を読んでいた。
和美はオフィスに魚住を残し、薄暗い明かりの部屋を出て行った。
魚住はその原稿の途中のページで手を止めている。
そしてその原稿を散らかった机の上に置くと、引き出しの奥に隠す様に入れていた別の原稿を出した。
取り出した原稿を震える手でゆっくりと捲って行く。
あるページを開くと、その原稿も机の上に置いて、椎名崙土の原稿と見比べる様に指で追った。
その二つの原稿は一言一句同じ文字が並んでいた。
一体、どういう事だ…。
魚住は額から汗を流しながら、その原稿を捲って行った。
最初のコメントを投稿しよう!