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野々瀬和美。
和美と書いて「なごみ」と言うらしいが、崙土は彼女の事をワミと呼ぶ。
復帰する前から数年、崙土の担当編集者だ。
「編集者は家政婦ではありません」といつも言っているが、和美が一日の大半を、この崙土のマンションで過ごしているのは事実である。
「そうだったのか…。それは失礼しました」
崙土はテーブルの上の灰皿でタバコを消すと頭を下げた。
「いい加減にして下さいよ。今日は大事な新作発表の日ですからね。そんな大切な日の前夜に、前後不覚になるまで飲まれるなんて…」
和美は文句を言いながら後ろを着いてくる。
崙土は部屋の入り口で立ち止まり、振り返ると和美を落ち着かせる様になだめた。
「わかった、わかった。わかったから…パンツ穿かせてくれ…」
そう言って微笑み、部屋に入ってドアを閉めた。
和美はドアに背中を着けて腕を組み、頬を膨らませる。
「先生も今や売れっ子作家なんですからね。少し自覚を持って頂かないと困ります」
ドアの外で和美が言う。
「わかったよ。今日はスーツじゃないとダメか」
部屋の中から崙土の声が聞こえた。
「当たり前です」
和美はドアに向かって大声で言うと舌を出した。
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