ゴーストライター

7/54
前へ
/54ページ
次へ
壁にかかった服を見て、崙土は息を吐いた。 「もう秋なので少し秋っぽい服で」と和美は赤茶色のジャケットとチェックのパンツを出した。 どうしてもスーツが嫌だと言う崙土の言葉に折れたのだった。 崙土はリビングのソファに座り、アイスコーヒーを飲みながらタバコに火をつけた。 崙土は一年を通してアイスコーヒーしか飲まない。 ある雑誌のインタビューにも載っていたが、吹雪のゲレンデでもアイスコーヒーを飲んでいたらしい。 崙土はふと視線を感じ振り返った。そこには娘の莉彩が立って、クスクス笑ってた。 「莉彩…。起きたのか…」 崙土は莉彩に微笑むとタバコを消した。 「うん。朝まで書いてたからね…」 莉彩は崙土の向かいに座った。 「すまんな。出版社がうるさくてな…。勢いがあるうちに一気に書き上げましょうってな」 莉彩はクスリと笑った。 「今朝もワミさんにやられてたわね…。うるさいったらありゃしないわ」 「ああ、ごめんな。ワミにはきつく言っとくよ」 崙土がそう言うと、莉彩は崙土を覗き込んだ。
/54ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加