君の味方

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 私は偶然、廊下を通りがかった時に『大丈夫ですか。部長に相談しましょうか』と言った。でも、彼は力なく笑うだけで。 『ありがとな、平気だよ。部長にも一度言ったんだけど、お前にも怒られる理由があるって言われてお終いだったよ』 『そんな……』  今思えば、あの時既に先輩は限界が来ていたのだろう。  課長からのいびりが止まない日々が続き、三か月経った頃。彼は自宅で首を吊った。  遺書には、恋人に結婚できなくなったことの詫び、両親に親不孝したことについての詫びなどが並んでいた。そして――会社に迷惑をかけてごめんなさい、と締めくくられていたそうだ。彼の両親はこの遺書の内容を、おおまかにだが、葬式で発表した。  どうして彼は謝るのだろうと、葬式に参列した私は漠然と、思った。彼が謝る理由がわからなかった。  私は、あの時に声をかけただけで。もっと、何かできたのではないかと、ずっと後悔していた。課長の怒鳴り声が響く中、オフィスで身を縮めていた私は――彼を悼む資格すら、ないのかもしれない。  そんな、先輩の事情を語り終えて私はうつむいた。 「ずっと、考えてたの。私はどうすべきだったのか、って。考えても、遅いけど……。でも、今回ヒロくんの事情を聞いて、思ったの。先輩とヒロくんは、似ていた。……ずっと挫折したことのない人で、だからこそ一度の失敗も許されないと思ってる人だってところが」  先輩に、仕事を辞めるなんて選択肢は浮かばなかったのだろう。それは、レールを外れることだから。人間は――特にこの現代社会に生きる人は、ほとんどがレールの上を歩んでいる。安全とされ、世間から「合格」とされるレールを。  レールから外れたことのない人は――それも華やかに順調に歩んで来た人は、レールから外れること自体があり得なくて。降りる前に、死という世界に走ってしまうのではないだろうか。  ……それが、先輩の死後二年で私が考えたことだった。
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