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そうして、最寄り駅に帰りつき――駅の改札を出た途端、男性の大声が響き渡った。
「浩紀!」
中年の男性が、ヒロくんを見据えて真っ赤な顔をしている。まさか――
「父さん……」
スーツ姿の男性は、ヒロくんの父親で確定らしい。まだ夕方だが、早帰りなのだろうか。
「お前、学校はどうしたんだ。何で制服じゃない!? その女性は誰だ!?」
彼の怒鳴り声に、私も驚きながら唇を噛む。
これは、まずい。
ネットで知り合った友達です。私の奢りで、色々遊びに行ってました。……事実だ。でも、印象は最悪だろう。ひょっとしたら、警察沙汰かもしれない。だからといって、私の口から、ヒロくんの事情を勝手に言うことはできない。
私は、ちらりとヒロくんを横目で見た。彼は青ざめた顔で、ぶるぶる震えていた。
……仕方ないか。ちょっとお縄ちょうだいになるかもしれないけど、今のヒロくんを追い詰めるわけにもいかない。
私が口を開きかけた時、ヒロくんは父親を見据えた。
「……父さん。俺、自殺しようと思ってたんだ」
「は?」
「この人は、話を聞いてくれたんだよ。……詳しくは、家で話す。ミカゲさん、また……」
驚きで言い返せない父親の手を引きつつ、ヒロくんは一礼した。「お、おい」と言い募る父親と、彼を無視して進むヒロくん。
帰っても大丈夫なのかな、と心配しながらも私は、彼らの後姿を見送るしかなかった。
その日のうちに、ヒロくんからメールが届いた。『親に、全部話しました。とりあえず学校に親から言ってくれるそうですけど、多分転校すると思います』という報告だった。
『転校、決まりました』
という報告メールが届いたのは、その一週間後だった。
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