君の味方

2/15

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 この国の自殺者は三万人を超える。正確な数は十万人とも言われているが――とにかく、たくさんの人が自ら命を絶っているのだ。  どこかで読んだことを思い出しながら、私はスマホの画面を眺めた。  がたん、と電車が大きく揺らぐ。すわ急停車か、と思いきや何でもないかのように電車は走り続ける。  よかった。人身事故じゃなくて。誰も線路に飛び込まなくて。  なんて、先ほどの思考に連続するように、安堵の想いが溢れる。  再び、私はスマホに意識を戻す。デジタルの画面に表示されているのは、マーマーッターというSNSだった。  誰でも気軽に呟けるSNSは数年前に突如現れたものだが、一躍世界中でヒットした。百四十字以内しか呟けないという制限があるものの、マーマーッターの世界には、いろんな言葉や思考が溢れている。  私も平凡な会社員なれど、一丁前にアカウントを取って日々呟いている。しかし私は特別な才能があるわけでもないので、実にささやかな規模で続けていた。  マーマーッターは、フォロー(追っかけ)という機能で、他人のアカウントとつながることができる。フォローしてくれた人のことは、フォロワーと呼ぶ。  芸能人はもちろん、素人でも人気のあるアカウントには、何百万人というフォロワーがいる。私のフォロワーは、たった二十人。それでも、私には多すぎるほどだった。  好きな漫画や音楽のことを呟いていたら、フォローしてくれた人。こちらから、趣味が合いそうだと思ってフォローしたら、フォローを返してくれた人。出会いの方法は様々だ。  会ったこともない、デジタルの世界でだけつながる関係。気が向いた時にだけ、相手の呟きに反応を示せばいい。  実に気楽で、だからこそ薄い関係。私には心地よかった。 「あれ」  ふと、今更新された呟きに私は思わず声を漏らした。  ――たすけて。  ヒロくん……どうしたんだろう。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加