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ヒロくんというアカウントはたしか、好きな音楽が一緒だったようで、向こうからフォローしてくれた子だ。呟きやプロフィール欄を見るに、彼はまだ学生らしい。中学生か高校生かはわからないが、まだ中学生なのではないかと思っていた。
楽しそうな学校生活を呟いたり、友達と遊んだと言って飲み物の写真を載せたり。典型的なリアルが充実した人――いわゆるリア充だった。
現実の友達はフォローせず、このアカウントはあくまで趣味アカウントだと主張していたっけ。それでもヒロくんは日常のことも呟くので、知り合いが見たらヒロくんだとすぐわかりそうだ。
このところ、呟きが絶えていたので気になっていたところだった。この呟きに、どう反応したものかと逡巡する。
なんとなく、嫌なことがあって自棄になって呟いただけかも。
……でも、そうじゃなかったら?
先ほどまで考えていた、自殺者の数を思い出す。
ヒロくんが自殺するかしないか、わからないけれど――。ここで見過ごして、ヒロくんの呟きがまた絶えたら私はきっと後悔するだろう。
うん、別に私に損があるわけじゃなし。
私は彼の呟きに、コメントを付けた。
『どうしたの?』
返事はすぐに返って来た。
『すごく辛いことがあったんです。もう死んでしまいたい。お世話になりました』
「ちょ、ちょっと!」
思わず声をあげて、私はここが電車内だということを思い出す。私の前に立つサラリーマンも、横に座るおばさんも、不審そうに私を見て来た。
失礼しました、と小さく呟いて私はスマホの画面を凝視する。
事態は思ったより、深刻なのかもしれない。思春期の子は繊細だ。本当に――自殺に踏み切ってしまうかもしれない。
私はすうっと息を吸って、ヒロくんに返信した。
『私でよければ、話聞くよ。メールアドレスは……』
と、メールアドレスも書いてみる。お節介だろうか、と手に汗がにじむ。
不用意に携帯メールのアドレスを書いたのは、危険だっただろうか。いや、あとで消せばいい。とにかく、今は――
ぴろん、とマーマーッターではなく携帯メールの着信音が響いた。私はマーマーッターの画面を閉じ、メール画面を開く。
『ヒロです。気にしてくれて、ありがとうございます。実は……』
今、いじめにあってます。
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