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電車を降り、改札を出て、例のカフェの看板を見上げた。
いつものように疲れ切って、あくびを堪えて入るのではなく、今から死地に赴く覚悟を決めた戦士のように堂々と――私は店内に入った。
いらっしゃいませえ、と店員の声が響き渡る。
カウンターでアイスコーヒーを注文し、窓際の席に座る。
『今、着きました。窓際の席に座ってます』
窓際に座る他の客はみんな家族連れや友達連れなので、窓際の席とだけ言えばわかるだろう。
そして画面から目を上げたところで、店内に入って来た少年に気付く。
こざっぱりした、茶色い髪。よく日焼けした肌。真っ直ぐなまなざし。
ああ、ヒロくんだ。どうしてか、私にはすぐわかった。
彼もすぐに私に気付いたらしく、こちらの席に歩み寄る。
「ミカゲさんですか」
「はい。ヒロくんですか」
「はい」
奇妙な確認の後、私は椅子を下りた。
「奢ってあげる。何がいい?」
「え、でも」
「いいから、いいから。何がいい?」
「じゃあ……アイスカフェラテで」
了解、と頷いて私はカウンターに近付いた。手早く注文と支払いを済ませ、席に座るヒロくんに近付く。
「はい、どうぞ」
「……すみません」
テーブルに透明なプラカップを置くと、ヒロくんは恐縮したように頭を下げた。
「あの、本当にありがとうございます。いきなり、こんな……」
彼の語尾が震え、私はぎゅっとアイスコーヒーのカップを握る。
「ううん。これは私のお節介だから。気にしないでね。それより、私……びっくりして声かけちゃって。迷惑だったかな、とか心配してたんだけど」
「いえ……嬉しいです。親とか、友達にも言えなかったし……」
そうして、ヒロくんはつっかえながら語り始めた。
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