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きっかけは、クラスメイトを庇ったことらしい。運動が不得意で、分厚い眼鏡をかけた男子生徒は引っ込み思案で、いつもひとりで過ごしていたという。
男子生徒の一部は、彼を自然にからかい始めた。次第に、どんどんと「からかい」はエスカレートしていき、いじめに発展したと。
教科書を隠したり、上履きを捨てたり……お金を奪ったり。蹴ったり、殴ったりと。典型的ないじめだった。
ヒロくんは彼が殴られているところを見かねて、庇ったらしい。「やめろよ」と。
ああ、と私は話を聞きながら感動してしまう。目の前に座る、鼻筋がすっと通った少年。いわゆるイケメンに属する男子。そんな彼が、いじめを止めようとしたなんて。彼は中身も綺麗なのだろう。清い少年だ。
彼は物語の主人公のように、不正に声をあげたのだ。
「俺……ちょっと、驕りがあったんです。結構クラスの奴らにも慕われてたし、その……」
「クラスのヒエラルキーの上層部にいたから、ってこと?」
私の確認に、彼は驚いたように目を見開き、頷いた。
説明されなくともわかる。学校のクラスには、必ずヒエラルキーが生まれる。容姿に秀でていたり、スポーツが得意な者は上層部に属しやすい。反対に地味な……私のような者は、常にヒエラルキーの下部を漂っていた。
ヒロくん、は見るからに……また、マーマーッターでの呟きから察するに、ヒエラルキーの上に属する少年で間違いない。
でも、と私は少し色素の薄い、茶色い彼の目に見入る。
ヒロくんには、少し影がある。その影は、彼の行動を左右する。たとえば私みたいな、インターネット上でも地味な女をフォローしてしまったり。少し文学作品に興味を持ったり。マイナーな音楽に、心底惚れてしまったり。
ヒエラルキー上位の人があまり取らない行動を、取らせてしまう。そういう意味で、彼はいわゆる「人気者」と少し違うのだ。
私などは、その影が心地いい。しかし、その影はいじめっ子からすると、「隙」でしかない。いじめを行う者はいつも、隙を見出す。
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