君の味方

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 私が考え、出した案は――とにかくヒロくんを辛い環境から引き離すこと、だった。  いじめに負けず、立ち向かい、堪えて学校に行くのが正義だなんて言う人もいるけど。彼らはそれで、子供の心がどこまで壊れるかは想定していない。十代の心は、大人よりずっと脆いのに。子供の頃に傷つけられた思い出は、長く人間を苦しめるのに。  とにかく、今はヒロくんの心がとても弱っているのだ。少しでも気持ちを回復させて、両親に言う勇気を貯めるべきだと思った。それから転校する手もある。残念ながら、未成年に自己の決定権はほとんどない。親に言う、というのがまず一歩になる。親を通してもらえば、学校の聞く耳も違って来る。  その翌日、「親戚の子が急病で、どうしても看病しに行かないといけないんです! 明日から休ませてください!」と半ば強引に、上司に休暇届を出した。有給をこんなに豪気に使ったのは初めてだ。  私は会社の帰り道、昨日ヒロくんと会ったカフェに入った。ヒロくんは手持無沙汰気味に、窓際の席でアイスコーヒーを啜っていた。 「ヒロくん、遅くなってごめんね。休暇取れたよ」 「……お疲れ様です。なんか……すみません」 「いいの、いいの。今日はどこで時間潰してたの?」 「……図書館の自習室で、ずっと本読んでました。制服だから司書さんに注意されるかと思ったけど、大丈夫でした。……まあ、サボり学生だとは思われたでしょうけど」  ヒロくんは照れくさそうに笑った。昨日より、笑顔が自然だ。今日一日学校から離れたことが、いい風に働いたのだろう。  これから毎朝、今日は風邪で休みますと学校に連絡するのは面倒だな、と彼は軽い口調でぼやいていた。 「それで、明日からどうすればいいんですか」  不安そうに、ヒロくんの目の奥の光が揺れる。 「ヒロくんの行きたいところ、行こう」  もちろん、これはとんでもないことだ。傍から見れば、ネットで引っかけた未成年をかどわかす女……とでも見えるかもしれない。犯罪になるかもしれない。  それでも、と私は決意する。少しでも、ヒロくんに元気をあげられるのなら、それでいい。  ヒロくんに生きていてほしい、というのは私のエゴだ。これからもう辛いことはない、とは言えない。ヒロくんのために、と諭したりはしない。これは私の我儘(わがまま)だ。  だから、責任は私が負う。 「じゃあ、明日はどこに行こうか?」
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