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アイ、伝染す
一体どこまで逃げれば、この悪夢は終わりを迎えるのだろうか。
ひたすら走り続ける息吹が二つ。それは茶髪で長身の男と金髪碧眼の女のものだった。男の名前はロバート、女の方はエマという。崩壊した街から逃れて郊外へと向かった二人。底知れぬ恐怖と先の見えない未来への不安。それらが重なり合い、彼らの心中に拭い切れない淀みが生まれていた。
そうして辿り着いた場所には人の気配が無かった。がらんどうの住宅の数々に、音が消失したかのような静寂の空間。未だに日が出ているというのに、和やかな空気は皆無だった。
嫌な風が肌を撫でる。ここで立ち止まるのは危険かもしれない。しかしエマは先程から疲れた様子だ。あまり無理をさせては体力が底をついてしまう。
「仕方ない。ここで一旦休もうか。休養は取れる時に取っておかないとな」
「そうね。正直もう走るのが辛かったの。これで少しは落ち着けそうね……ウッ!」
途端に左腕を抱えるエマ。その顔に苦悶の表情が刻まれる。彼女は痛みに耐え切れず、その場にしゃがみ込む。
「どうした!」
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