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すぐさまロバートは彼女の元へ近寄る。痛みの元凶であろう左手を見ると、甲に引っ掻き傷のような物があった。その周りが赤く変色していて、見るからに痛々しかった。それだけでなく、火照って顔が赤くなったり呼吸が乱れたりしている。
「何てことだ……、炎症を起こしてるじゃないか。急いで休める所を探さないと。歩けそうか、エマ?」
「ええ、大丈夫よ。いきなり痛み出したから少しびっくりしただけ」
そう言ってエマは虚脱した力を振り絞って、ロバートに笑顔を見せる。無理をしていることが一目で分かってしまうほどの、他愛ない嘘。ロバートは己の心が引き裂かれたような感覚に陥った。だが、表面上だけでも取り繕おうと、彼は弱々しい笑顔で返答する。
「無理するなよ。ほら、支えてやるから俺の肩に掴まれ」
「ありがとう。……前から思ってたけど。ロバートって見た目の割に紳士的よね」
「一言余計だ。黙って俺に寄り掛かってろ、傷に響くぞ」
「はいはい」
ロバートはエマの右手を肩に回して、彼女を支えながら立ち上がる。辿々しい歩みで彼らは休息の地を探し始めた。
路地の奥へ入った先に大きな樹があった。これまでの土地とは対照的に、生命力のみなぎる緑に彩られていた。その光景に安心感を覚え、二人はそこに腰を下ろした。
「ほら、見せてみろ。応急処置ぐらいはしてやる」
ロバートはぶっきらぼうに右手を差し出す。その不器用な気遣いに、エマは思わず吹き出す。
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