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「行き止まりの壁は、明らかに二メートル以上はありました。しかも周囲には取っ手もなにもない、つるつるした石塀です。そんなところをよじ登れるとはとても思えない。」 「ふむ。なるほど」 車六は顎に手を当てた。 「なら、道中、例えば電柱の影などに隠れて、走っていくあんたをやり過ごしたという線は?」 「考えられない」 否定のために磯崎は首を振る。 「あの道はかなり見晴らしがよかった。確かに道々に電柱等はありましたが、そこを見逃すとは思えない」 「でも、あんたは仮装してたんだろう?かなり視界が遮られていたはずだ」 車六の反論にも磯崎は動じず。 「まあ、俺だけなら誤魔化せたとしましょう。それでも、それほど間をおかずに駆けつけた応援の巡査達の目は誤魔化せませんよ。穴があくほどよく調べたんですから」 「ふむ。なるほどなるほど」 車六は顎をさすりさすり、満足気に喉をならす。 磯崎はこうも色々と解を思い付く磯崎に舌を巻く反面、それを自分が次から次へと否定しなくてはならないことにやりきれなさを感じていた。 「なら、忍者みたいに、壁と同化した布の被り物でやり過ごしたというのも」 「考えられない、です」 磯崎は「はあ」と息を吐く。 そんな彼をぽんぽんと叩いて車六は 「まあまあ。他にいくらでも可能性はあるんだから」 その言葉通り、驚くほど多くの仮説を車六は披露してみせた。     
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